非常勤役員の社会保険の適用について

非常勤役員は社会保険や労働保険の連用対象となるのでしょうか?
非常勤役具の社会保険の適用については適用事業所との実質的な使用関係の有無により判断されます。一方、労働保険は原則として適用されません。

1.問題の所在

 一般的に非常勤役員は、経営方針に対する助言、コーポレートガバナンスの強化、または別分野のノウハウの強化など、さまざまな企業のニーズに基づいて就任するケースが考えられます。しかしながら、そもそも非常勤役員の法的な定義はありません。
では、非常勤役員の社会保険や労働保険の適用については、どのように取り扱うべきでしようか。
 この点、非常勤であっても委任契約に基づく役員に変わりはありませんので、社会保険や労働保険における役員の取り扱いを確認する必要があるといえます。

2.社会保険(健康保険・厚生年金保険)の適用について

 健康保険法3条では「この法律において『被保険者』とは、適用事業所に使用される者及び任意継続被保険者をいう」とし、厚生年金保険法9条では「適用事業所に使用される70歳未満の者は、厚生年金保険の被保険者とする」と定められています。さらに健康保険・厚生年金保険では、役員や法人の代表者であっても、法人から労務の対償として報酬を受けている者は、法人に使用される者として被保険者の資格を取得するものとされています(昭24. .28保発74)。
 つまり、被保険者となるには、適用事業所から「労務の対償として報酬を受け」「使用される者」と認められることが必要となりますので、非常勤役員が実質的にどのような関係にあるかどうかが、社会保険の適用についてのポイントになるといえます。
 これに関して、日本年金機構にて公表されている疑義照会において、役員の被保険者資格の取り扱いに関するもの(受付番号N〇.20W一111)があり、「適用事業所において使用され、労務の対償として報酬を受けている役員は常勤、非常勤を問わずにすべて被保険者として扱うのか」との問いに対して、「労務の対償として報酬を受けている法人の代表者又は役員かどうかについては、その業務が実態において法人の経営に対する参画を内容とする経常的な労務の提供であり、かつ、その報酬が当該業務の対価として当該法人より経常的に支払いを受けるものであるかを基準に判断されたい」と回答しており、参考となります。
 また、これに関連する別の疑義照会(受付番号No.2010— 77)では、使用関係の有無に関する具体的な判断材料例が、以下のとおり示されています。
当該法人の事業所に定期的に出勤しているかどうか
当該法人における職以外に多くの職を兼ねていないかどうか
当該法人の役員会等に出席しているかどうか
当該法人の役員への連絡調整または職員に対する指揮監督に従事しているかどうか
当該法人において求めに応じて意見を述べる立場にとどまっていないかどうか
当該法人等より支払いを受ける報酬が社会通念上労務の内容に相応したものであって実費弁償程度の水準にとどまっていないかどうか
 例えば、週3~4日程度出勤する非常勤役員については、ほぼ定期的に出勤していると推測されますので(上記判断材料①)、その他の判断材料(②~⑥)を確認して、総合的判断において実質的な使用関係等があると認められる場合には、社会保険の被保険者として取り扱われるものと考えられます。
 つまり、「非常勤」という名称にかかわらず、実態に基づいた複数の判断材料によって、社会保険の被保険者資格が認められることになります。

3.労働保険(労災保険・雇用保険)の適用について

 一方、労働保険はその適用対象を労働者としているため、原則として、役員には適用されません。
 ただし、労働者性があると認められる役員については、労災保険、雇用保険ともに保険対象となる場合があります。
 非常勤役員が、経営方針に対する助言等、前述の一般的な理由で就任されるのであれば、労働者性があると判断される可能性は低いため、当該非常勤役員の労働保険の適用はないものと考えられます。
 最後に、例外的に役員が労働保険の対象となる場合を示します。
[1] 労災保険
 「法人の取締役、理事、.無限責任社員等の地位にある者であっても、法令、定款等の規定に基づいて業務執行権を有すると認められる者以外の者で、事実上、業務執行権を有する取締役、理事、代表社員等の指揮、監督を受けて労働に従事し、その対償として賃金を得ている者は、原則として労働者として取り扱うこと」(昭34.1.26基発48)
具体的なケースとして、以下の2点が挙げられます。

  • 役員の業務のほかに、他の労働者と変わらない業務にも従事し、役員報酬とは別に、労働の対償として賃金を得ている者
  • 名目的な役員で、実態は他の労働者と変わらず、指揮命令を受け、業務に従事している者

[2] 雇用保険
 「株式会社の取締役は、原則として、被保険者としない。取締役であって同時に会社の部長、支店長、工場長等従業員としての身分を有する者は、報酬支払等の面からみて労働者的性格の強い者であって、雇用関係があると認められるものに限り被保険者となる」(取扱要領20351)
 雇用保険では兼務役員において、役員的性格より労働者的性格が強い場合に、被保険者となります。具体的な要件として、役員報酬と賃金を比較して賃金の占める割合が役員報酬を上回っていることや、労働者部分についての就業規則等の適用が一般の労働者と同様であることが必要となります。